0歳から3歳未満の乳幼児にとっての理想的な英語教育とは?
英語教育の低年齢化は目を見張るものがある。生まれる前から胎児に聞かせる英語CDなども販売され胎教から英語教育は既にスタートしているとも言える。また0歳児から英会話スクールやプリスクールに通ったり、家庭で乳幼児に聞かせる英語CDや乳幼児に見せる英語DVDなどが世に氾濫している。母親が自ら英会話で子供とコミュニケーションするという学習方法まである。
このブログでは既存の乳幼児向け英語教育方法が果たして有効なのか?また子供の成長にとって弊害はないのか?さらに理想的な乳幼児向け英語教育とはどういうものなのかについて論じてみたい。
1)乳幼児に英語のCDを聞かせたり、DVDを見せることは英語習得にとって有益なのか?
書店には乳幼児向けの英語教材が溢れています。その多くはCDやDVDが付属しており、ご家庭で簡単に再生することができます。しかし、ただかけ流しておくだけで英語が聞けたり話せたりできるようになるという宣伝広告に騙されてはいけません。CDやDVDで聞いたり見たりした英語はそのままでは乳幼児の脳には残りません。英語ができる大人と一緒に聞いたり見たりして、大人が乳幼児にその英語を生の人の声として語りかけ、乳幼児がそれに反応することによって初めて音声としての英語が脳に刷り込まれます。特に0歳児から3才未満の乳幼児に長時間、CDを聞かせたりDVDやビデオを見せたりすることは子供の成長にとって弊害があるようです。大人が傍にいて聞いたものや見たものを共有するのであればまだ良いのですが、大人が共有せずに子供一人に聞かせたり見せたりしておくことは絶対にやらない方がよいでしょう。
サリー・ウォード(英国人の言語治療士)も、0~4歳「語りかけ育児」の著書に次のように書いています。(注1)
効果については、
「赤ちゃんがことばをわかってきたからといって、テレビからことばを覚えると勘違いしてはいけません。赤ちゃんや子供はあざやかな動く光と色に心をうばわれて、音は何も聞いていません。ある実験では、ドイツ語のテレビをかなりの期間見たオランダの赤ちゃんが、ドイツ語は何も学んでいませんでした。」
弊害については、
「こどものためのテレビ番組やビデオは1歳から楽しめるかもしれませんが、正しい見せ方が大切です。どんなに多くても1日30分にとどめておいて下さい。人とかかわり、遊びからたくさんのことを学ぶのに時間がたくさん必要な時期なのです。今その機会を失えば取り返しがつきません。1日6時間以上も見ていた子を、私はたくさん知っています。その子たちはことばが大きく遅れただけでなく、人とかかわったり、遊ぼうとする意欲が見られず、周りの世界を理解するのも遅れていました。こども達はかわいそうに、混乱した状態に陥っていました。」
視覚に訴えるTVやビデオだけではなく、音声や音楽が聞こえてくるCDにも同じことが言えます。意味のわからない英語音を子供は聴いていません。英語には「音をきく」という意味でlisteningとhearingという2つの単語があります。listeningは音源に耳を集中させて音を聴き取るという意味で、hearingとは集中して聴くというよりも何となく音が聞こえてくるという感覚です。ですから音楽を聴く、人の話を注意して聴くはlistenを使います。耳がちゃんと機能して音が聞こえているかをチェックする聴覚テストはHearing Testと言います。
英語のCDをかけ流しにしても子供は聞こえてくる英語を聴き取ってはいません (not listen to) 。音が耳に聞こえているだけです(but hear)。他の玩具で遊んでいれば、聞こえてくる英語はただ単なる雑音にしか過ぎないでしょう。子供が3歳以上であれば大脳の「聴覚野」がある程度出来上がっているので聞きたい音に集中して、聞きたくない音を「無視」できます。流す英語のCDが大好きで他の玩具で遊んでいてもそれを止めて英語を聴きたいという状況ならば別ですが、BGM的に流れてくる英語を子供の耳は「無視」しているはずです。子供がまだ3歳未満であれば、「聴覚野」がまだ確立しておりませんので、聞きたくない音が流れていてもそれを「無視」することができません。赤ちゃんとお母さんの関わりの中で、例えばオムツを取り替えながら母親が赤ちゃんに一生懸命に日本語で話しかけている最中に、英語をCDで流したりモーツアルトなどのクラシックを流しておくことはやらないほうがよいでしょう。せっかくお母さんが話しかけている日本語に周りの音が邪魔をして赤ちゃんが母親の声を集中して聴くことができないからです。前述のように乳幼児は母親や他の人の声を生で聴き取って母語を学んでいます。母親、父親、その他家族や知り合いが日本語で乳幼児に話しかけることによってのみ母語を習得していきます。その大切な母語習得の最中に、英語やクラシックのCDが流れていたり、英語のDVDが再生されていては、乳幼児は耳を澄まして生の人の声に集中することはできません。いつもCD、DVD、TVやラジオの音がする家の中で育てられた乳幼児が注意散漫に育ってしまうことは自明の理です。
2)3歳未満からプリスクールや英会話スクールに通って英会話を学ぶことは子供の言語(母語と英語)習得にとって本当に良いことなのだろうか?
結論から先に書くと、3才未満の乳幼児に母語の日本語にしろ外国語の英語にしろ、言葉を教え込もうとしては決していけません。特に週1回40分程で母親と乳幼児に英語を教える英会話スクールのグループレッスンにはとても注意が必要です。3歳になる前から英語のアルファベットや色や数や物の名前をたくさん教えることは、今後の英語学習にとって何の意味もありません。むしろ今後の言語習得(母語と英語)に困難をきたす原因となってしまうかもしれません。大人の都合で言葉を子供に教え込もうとすればなかなか覚えてくれず、母親にとっても子供にとってもいらいらの原因となってしまうからです。
サリー・ウォードの著書からの引用です。
「3歳のトビーは、ことばの遅れがひどいために連れてこられました。いちばんよく言う言葉は「ぼく、できない」でした。お母さんはこどもは早く教えれば早く覚えるという考えにとらわれていて、1歳になる前からアルファベットや色や数や形の名前を教え始めました。トビーはとても攻撃的で欲求不満な子に育ち、ほとんどの分野で発達の遅れがありました。」
「トムを初めて診たのは3歳になろうとするときでした。トムには学習障害のある伯父がいたので、不安にかられた両親はトムがそうならないようにと、あらゆる機会をとらえて数えたりアルファベットを唱えることを教え込みました。トビーと同じように、トムもそんな文字や数が何を意味するのかがまったくわからないうえに、時間をとられて、遊びや会話が少なくなっていました。自分から口をきくことはごく少なく、言われたことも少ししかわからないので、しょっちゅう聞いたことをオウム返しに言っていました。注意散漫で、ごっこ遊びもほとんどしませんでした。」
以上は親が子供に言葉を無理に早期に教え込もうとした結果として起こってしまった悲劇です。
更に幼児教育の権威モンテッソーリ(注2)は言っています。「吸収する心が旺盛な三歳頃までに、子供は実にたくさんの印象を吸収してしまい、その雑多なもろもろの印象は混沌とした深遠のように子供の内面に漂っています。その混沌とした子供の心は何も新しいものを必要としないのです。それからは、既に在るものの中に秩序が必要なのです。三歳頃から子供は物の特徴に従って区別することを始めます。大きいと小さい、太いと細い、長いと短いなど、形を区別します。色を区別し、さらに濃度によって差異をつけます。」また「丸・三角・四角のような言葉は、具体物の中に共通している性質を表現する言葉です。この言葉を使うとき、人間は抽象するという知的な働きをしているわけです。」とも述べています。
つまり物の形や色、数などによって物を区別して秩序立てて理解するのは3歳頃からだということです。3歳未満の乳幼児に物の性質を表現する言葉である色や数や形の名前を教えたとしても子供はその意味や使い方がわからずに欲求不満になるだけであり、むしろそれら物の性質を名前ではなく、その印象として子供の内面に漂わせることが大切だということです。
早期英語学習という名のもとに同じような失敗を自分の子供にしてしまっていないか、ちょっと立ち止まって冷静に考えてみて下さい。
3)母親が子供に外国語である英語を話しかけることは有効か?
国際結婚でそれぞれの親が母語で子供に話しかけることは子供をバイリンガルに育てる上でとても効果的です。母親は母語の日本語、父親は母語の英語で、生まれたときから子供とコミュニケーションを取っていけば子供は完全な日英バイリンガルに育ちます。それでは、純粋な日本人の両親で子供に英語で話しかけることはどうでしょう?母親が子供に英語で話しかけて家庭内で英語のコミュニケーション機会を子供に与えることを推奨する書籍などが出版されております。しかし、特に3歳未満の子供にこれは決してやってはいけません。子供は混乱しますし、場合によっては母語の日本語の習得に支障をきたしてしまう場合もあります。上記のように国際結婚で母親は絶えず日本語、父親は絶えず英語であれば全然問題ありません。子供のほうでママとは日本語、パパとは英語という棲み分けができていれば混乱することはありません。(勿論、日本語・英語と区別できるようになるには3歳以上になってからです。しかし子供はそれぞれの親が使う言語の特徴を確りと耳でキャッチして母親と父親が話す言葉が違うことは何となくわかっているはずです。)両親が日本人で、子供と接する時間が一番長い母親が、ある時は日本語ある時は英語で子供に話しかけたらどうなるでしょうか?子供はどちらの言葉を真似したらよいか戸惑ってしまう筈です。ましてや0歳~3歳未満で母親の「語りかけ」が母語の習得に一番大切な時期に母親がこれをやってしまってはたいへんなことになります。
サリー・ウォードの著書から「最近とてもかわいいエリシアという3歳の女の子に会いました。ことばが遅れていて、まわりの人はとても心配していました。エリシアはほとんど単語しかしゃべらず、ときたま2語文が混ざるだけで、文をつくるのにとても苦労しているようでした。両親ともギリシャ人で、英語は母国語ではありませんでしたが、英国に住んでいるからには、英語で話しかけるべきだと考えていました。私はギリシャ語の「語りかけ育児」にどっぷりつかるように提案しました。2ヵ月後にもう一度会うと、両親はエリシアがあっという間にギリシャ語を覚えたと驚いていました。家庭でもギリシャ語で話しかけるようにしたところ、遊び友達の中で、見る見るうちに英語を覚えたので、両親はまたまたびっくりしました。」
このように母語の習得は外国語習得にも良い結果をもたらします。中途半端に母親が母語でない英語で子供に話しかけることは止めたほうがよいでしょう。母語である日本語を確りと定着させてから外国語の英語を学習しても遅くありませんし、その方が英語の習得にも効果的です。
前述のとおり、0歳から3歳未満までの外国語教育は3歳からのそれとはまったく別物と考えた方がよいでしょう。180度やり方を変えなければ決して成功しません。
最後に理想的な乳幼児向け英語教育方法を提案してみます。
1)英語を一切「教え込まない」。大人が子供に英語で何かを言わせたり、子供が言った英語の発音を矯正したりしては決していけない。
乳幼児英語教育で典型的なのは、色や形、数や身近な物の名前をカードにして子供に見せながら先生の後に真似して英単語を言わせるリピート指導法です。しかし、3才未満の乳幼児に英語をリピートすることを強制してはいけません。ましてやリピートした子供の発音を矯正しては絶対にいけません。「発音のリピートとその矯正」が子供に与えるメッセージは、自分が何かを英語で言っても受け入れてもらえない(直される)ということであり、その結果として、子供達は不安で悲しくて英語を逆にあまり言わなくなってしまいます。
モンテッソーリも言っています。「訂正しながら教えてはいけません。大人は、自分がして見せたとおりに子供がしないのを見ると、とっさに手を出して訂正したり、言葉で責めたりするものです。でも、この反射的な大人の訂正に出会うと、子供の心は萎縮します。子供がひとたび自分の殻に閉じこもってしまうと、もうどんなに教えても受け入れません。」
リピートや発音矯正は一切行なわずに、カードを見せながら先生が英語で子供に「語りかけ」ます。その内に、子供は先生がリピートしなさいと強制をしなくとも自然とその単語を口に出すようになります。言葉に出せたら、思いっきり褒めてあげます。発音はけっして評価しません。言葉に出せたことを褒められれば、子供は何度も英語を口に出すようになり、無意識に「語りかけ」で聴いた先生の発音と自分の発音を自ら比較して先生の発音に近づけようと試みます。その内に、先生の発音に近い音を出せるようになります。これは母語を習得する過程とまったく同じです。前述のように「教え込まれる」と母語でも子供は発話しなくなります。ましてや外国語はなおさらです。乳幼児は大人よりも優れた言語習得能力を持っています。その優れた能力を最大限に発揮させてあげるには、「語りかけ」と「子供が自ら発話して自ら発音を改善する機会を与えること」が最も大切です。
2)CDやDVDは1日30分間に留めて、先生と一緒に集中して聴いたり見たりする。そして聴いたり見たりしたことに対して先生が子供に「語りかけ」てあげる。
人の生の声でCDで聴いた英語の歌を最初はCDを停めて何回も聞かせてあげます。無理に一緒に歌わせません。先生が楽しそうに歌っているのを聴けば子供は、その内に自分で歌いたくなってきます。子供が自分から歌いたくなって歌うことが大切なのです。子供が一緒に歌い始めたらしめたもの。新しい英語の歌をたくさん聴いて、たくさん自分でも真似して歌い始めます。
DVDについては、見たことを先生は生の声で実況中継してあげます。そして見終わってから、こんなことを言ってたわね、こんなことをやってたわねと「語りかけ」てあげます。DVDと内容が関連した絵本を使うと効果的です。今みた内容について絵本を見ながら先生が同じことを生の声で実況中継してあげます。ひたすら語りかけます。その内に子供は先生の真似をして英語を口に出すようになるでしょう。しかし、まだ子供に質問してはいけません。
一般的な英語のレッスンとして先生から生徒に質問するという指導方法がありますが、これは3才未満の乳幼児にはやってはいけません。何故ならば質問に的確に答えるという重荷が子供に課せられるからです。まずは質問に答えられないと子供は落胆します。そして答えたとしてもその答えが間違っていたり不十分であれば先生に直されるからです。前述の発音の矯正と同じ心理が子供に働きます。質問に対する完璧な答えを言わないと自分の言ったことは受け入れてもらえないのです。子供は不安になり、悲しくて、質問に答えようとしなくなるはずです。
3)3歳未満の乳幼児を英会話スクールやプレスクールに通わせるのはまだ早すぎます。
精神的に一番安心できて最もリラックスできる家から、まったく別な世界(学校や教室)に行かなければならないからです。また他の生徒たちとの関わりがあります。家ではいつも自分が主人公で母親や父親が一対一で相手をしてくれます。それがスクールでは先生一人に子供数人です。一対一で先生は相手をしてくれません。自分はグループの中の一人にしか過ぎません。先生は自分にだけ話をするのではなくグループへお話しします。自分が言ったことに対して先生はその都度反応はしてくれませんし、レッスンの流れと関係ないことを英語で言ったとしても無視されるか、場合によっては「静かにして先生の言うことをよく聞きなさい」と強制されるかも知れません。グループで指導する場合、上記やってはいけないこと(リピート、発音矯正、質問に答えさせるなど)のオンパレードです。
乳幼児の英語教育において、家庭に英語の先生(または英語シッター)を招くことが最善の方法です。上記理想的な子供との接し方を英語シッターは心得ています。あたかも国際結婚してできた子供の母親(父親)の如く、英語シッターは英語で「話しかけて」くれます。自分の英語の発話にも耳を傾けて聴いてくれます。母語である日本語に限りなく近い方法で自然に英語を習得することができるのです。
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参考文献
(注1)サリー・ウォード イギリスの言語治療士の第一人者。「語りかけ育児」が、乳幼児の心と知能を無理なく伸ばし、コミュニケーション能力を育てる21世紀の新しい教育方法として世界各国で注目を集める。(「語りかけ」育児 サリー・ウォード著 小学館)
(注2)マリア・モンテッソーリ(Maria Montessori, 1870年-1952年)イタリアの医学博士、幼児教育者、科学者。モンテッソーリ教育法の開発者。どの子供にもある知的好奇心は、何よりその自発性が尊重されるべきで、周囲の大人はこの知的好奇心が自発的に現われるよう、子供に「自由な環境」を提供することを重要視した。また、子供を観察するうち月齢、年齢ごとに子供たちの興味の対象がつぎつぎ移り変わる点に着目し、脳生理学に基づき、さまざまな能力の獲得には、それぞれ最適な時期があると結論付け、これを「敏感期」と名づけた。(「ママ、ひとりでするのを手伝ってね!」相良敦子著 講談社)
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